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仙台高等裁判所 昭和38年(ネ)463号 判決

控訴人 仙台北税務署長

訴訟代理人 朝山崇 外二名

被控訴人 株式会社高橋工業所

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の各請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、別紙各準備書面記載のとおりの外、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

被控訴人の本訴請求については当裁判所もまた正当としてこれを認容すべきものと判断するが、その理由は、次に付加記載する外、原判決理由と同一であるから、原判決理由説示の事実の確定および法律判断を引用する。

法律が特に法人税について、青色申告制度を設け、更正処分および再調査決定の各通知書に理由を付記すべきものとした趣旨よりすれば、右付記理由は、納税義務者が推知できると否とにかかわらずこれを記載すべきものと解すべきである。そして、もとより右付記理由は、いかなる程度に具体的に記載すべきであるかは、各具体的事案に応じて決定されるべき問題ではあるが、本件においては、なお本件再更正処分および再調査棄却決定の各通知書における付記理由はその記載よりみて不備であることのそしりを免れず、ことに成立に争いのない乙第二号証の一、二に、原審証人高橋徹郎、高橋秀夫の各証言および弁論の全趣旨を総合すると、被控訴会社は、本件法人税の確定申告に対する当初の更正処分通知書の付記理由について、理解することができず、控訴人に対し、説明を求め、結局その説明をのみ、これに従つたが、その後の別途本件再更正処分についても、その付記理由自体よりみて、理解納得することができず、木件再調査請求をし、これに対する本件棄却決定についても、同様理解納得することができなかつたので、やむなく本訴請求に及んだものであることを認めることができるから、被控訴人が右付記理由をもつて、具体的内容が不明であると主張するのも無理からぬものといわなければならない。

要するに、本件再更正処分および再調査請求棄却決定の各通知書の付記理由は、付記理由としてなお不備であつて、これに反する控訴人の当審における主張は採用することができない。

よつて、右と同趣旨に山た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松村美佐男 羽染徳次 野村喜芳)

準備書面(控訴人)

原判決は最高裁判所昭和三七年一二月二六日判決及び同三八年五月三一日判決を単に形式的、公式的に理解するの余り、事案の具体的個別的特殊性に対する考慮を欠きその結果法人税法第三二条及び同法第三四条の解釈を誤り、本件再更正処分及び再調査決定の附記理由を不備であると判断した違法がある。

第一、本件再更正処分の通知書の附記理由について

(一) 前記最高裁昭38・5・31判決によると青色申告の更正処分通知書には、更正の理由として「特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して、処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とすると解するのが相当である」とし、これを踏襲した最高裁昭38・12・27判決も、青色申告の場合の更正通知には「帳簿との関連において、いかなる理由によつて更正するかを明記することを要するものと解するのが相当である」としているが、これらの判断が与えられた事案においては、いずれも通常の営業行為として流動資産たる商品の継続的反覆的かつ大量的取引行為に関する帳薄書類(売上計上洩れ)に基因して更正がなされたものであり、またその更正通知に附記された理由は前者においては「売買差益率検討の結果、記帳額低調につき調査差益率により基本金額修正、所得金額更正す」後者においては「売上洩一九〇、五〇〇」と記載されていたものであることを見逃がしてはならない。

青色申告の更正通知について法が要求している附記理由は、どの程度に記載すべきであるか法の趣旨目的に照して一般的抽象的にいうなら右最高裁昭38・5・31判決の説示するように、帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにする必要がある、といつてよいであろう。それが法の理想とするところであろう。しかし各個の具体的事案について、具体的にどの程度に記載すれば足るか、どの程度まで記載しなければ違法となるかは、更に各個の具体的事案に即して考慮判断すべきものであろう。右最高裁判決も当該具体的事案における更正通知の附記理由が、全く具体的根拠の明示を欠くが故に違法であると判断したにとどまり、積極的に適法要件として附記すべき理由の一般抽象的基準を示したものではないと理解すべきものと考える(右判例についての渡部最高裁調査官の解説、法曹時報一五巻七号九四頁参照)。なお、このことは、右判例について最高裁民集一七巻四号に判決要旨として摘録されているところをみても、またその後の最高裁昭38・12・27判決における山田裁判官の後述少数意見に照らしてみても、これを首肯できよう。

(二) ところで、本件再更正処分にあつては、右の事案におけるような流動資産たる商品の継続反覆的且つ大量的取引の一部の脱漏に関する修正ではなくして、当該年度における固定資産たる借地権の、しかも一回限りの取引(他に類似の行為はない)に関する修正に外ならないのである。即ち、被控訴会社は係争事業年度に本件建物を訴外KK百反に対し譲渡したので、その際当然に固定資産に属する右敷地の借地権が随伴して移転すべきであるのに、この借地権移転に相当する譲渡価額が全然記帳されていないので、被控訴会社の所得金額には、更に右借地権価額三三〇万円を加算すべきものとして再更正し(注一)、その通知書に更正理由として「借地権計上洩三、三〇〇、〇〇〇」と附記したのである。つまり本件再更生処分の実質的理由は、一つにかかつてこの借地権移転によつて通常当然に生ずべき所得三三〇万円の記帳がなかつたのでその借地権価格三三〇万円の計上洩れを所得に加算すべきものとしたことによるものである(注二)。してみれば、その通知書に附記された「借地権計上洩三三〇万円」との更正理由は、その表現においてやや簡略に過ぎる嫌いはあるにしても、本件再更正処分の具体的根拠を明らかにしているものというべく、法第三二条にいう理由附記の要件を満たしているものと解すべきである。更にそれに附加して右借地権価格三三〇万円算出の根拠まで挙示することを要するものではないと考える(注三)。

(注一)本件建物の譲渡に伴い当然その敷地の借地権も移転したのであるが、被控訴会社はその譲渡代金として建物価格に相当する四六〇万円しか受取らず借地権移転に相応する対価三三〇万円は現実には受領していない。それにもかかわらず、控訴人が右借地権価格三三〇万円の計上洩れとしてこれを所得金額に加算して再更正した根拠は、法人税法三一条の三の規定(同族会社の行為計算否認規定)によるものである。このことは、従来控訴人の主張してきたところであるが、本件更正処分の通知には、その根拠まで明示していない。けだし、右規定は法人における課税所得金額算出上の計算規定であるから、更正通知に附記すべき理由としては、右根拠法条までもあげる必要はなく、その具体的適用の結果である「借地権価格の計上洩れ三三〇万円を所得に加算した」旨を明らかにするだけで足りると解するからである。かりに一歩を譲つて加算根拠を示す必要があるとしても、控訴人は被控訴人の右借地権計上洩加算を不服とする再調査請求を棄却した本件決定において、その根拠を明示しているのであるから、そのかしは治癒されたものと解すべきである。

(注二)本件再更正処分の通知書にその他の更正理由として掲げられている建物譲渡損否認五八七、五九四、同益一二、四〇六寄附金超過取消六〇三、〇四二については控訴人提出の原審昭35・11・22付準備書面(本件課税の経過)及び同昭38・10・2付第八準備書面四において既述したとおりで、これは被控訴人が当初本件建物を四〇〇万円で譲渡したとしながら、後に右譲渡代金を四六〇万円に増額計算したので、当初更正(昭33・12・23付更正処分)において贈与(寄附金)として処理した六〇万円の部分がなくなつたこと等に基因して、寄附金の損金算人限度超過額を減算修正したことによるものであり、全く技術的な税務計算上の理由である。なお、再調査請求にあたり被控訴人から提出された「法人税の再調査請求理由の追加申立並びに陳情書」(乙第二号証の二)の一の記載によると、「本件更正通知書の附記理由(1) 及び(二)については異存なく納得いたし、帳簿修正をいたしますが、ただ(三)の借地権計上洩三三〇万円については納得いたしかねる次第である」としていながら、本訴において(一)及び(二)の具体的内容が不明であるとしているのは、その真意を計りかねるといわねばならない。

(注三)例えば、時価一〇〇万円の建物を五〇万円で譲渡した場合には、所謂低廉譲渡として、その差額五〇万円については寄附金(相手方が従業員又は役員の場合は給与又は賞与)として所得金額を更正することになるが、その際の更正の理由としては「○○建物は時価一〇〇万円が相当と認められるところ、これを昭和何年何月何日金五〇万円で〇〇に対し譲渡し、その差額五〇万円を相手方に贈与したものと認められるから、その分を所得に加算して更正した」旨を記載すれば足り、時価を一〇〇万円と認定した根拠についてまで「帳簿の記載以上に信憑力のある資料を摘示する」ことを要するものと解すべきではない。もし本件事案のような場合に原判決の説くように「どのような借地権が、どのような資料により認めれたのか・・・・その借地権の価額がいかなる根拠に基いて算出されたものなのか等」について、右記載自体から納税者が知り得るような理由の記載を要するとすれば全く判決と同様の詳細な理由の記載が必要となり、かくては税務行政のすくい難い渋滞をきたす結果を招来することは必然であろう。

(三) 前記最高裁昭38・12・27判決は「売上計上洩一九〇、五〇〇」とのみ附記理由した更正処分に係るものであるが、同判決に附せられた裁判官山田作之助の少数意見を掲記すれば次の通りである。即ち「本件更正理由として、如何なる点で更正することにしたかまたその更正する金額、この二点に関して売上計上洩があること、その計上洩は一九〇、五〇〇円であると認定したことを明示しているのであるから、更正理由附記としては具体性を明確にしているものというべく、換言すれば税務署長と納税者の間において、その争点、その争点額が右通知書により具体的に明確にされているものといわなくてはならない。従つて、本件附記は適法であるものと解すべきである。けだし、右理由附記が要求されている所以の主たるものは、右附記されたる理由により、税務署長が如何なる点において更正すべきとしたか、その金額はいか程であるかを納税人をして了知せしめ、もつて税務署長の更正に対し、不服の申立をすべきか否やの判断の資料を与えようとするものであると解すべきだからである。もとより理由附記としては、なるべくその資料証拠等を示す等詳細に記載せしめるに越したことはないが所謂行政経済の立場からいつても、すなわち、必要以上に前記理由を詳細に記載せしめることは、税務行政上の負担の過重をきたし、ひいては、いたずらに国民の国費負担額を増加せしめる原因となるおそれなしとしないから、その記載の程度は納税人が具体的な争点及び争点額を知るに足る程度でよいと考えるのである。」と説かれている。

右の事案における「売上計上洩」と本件におけ石「借地権計上洩」との記載はその表現の類似性にも拘らず、その具体的事案において意味するところは、本質的相違がある。このことについては、さきにふれたところであるが、「売上計上洩金何円」との附記理由でも違法ではないとする右山田裁判官の少数意見は、それより遙かに具体性を有する本件附記理由の場合、特に適切にあてはまるものであり、控訴人はその見解を全面的に援用する。

第二、本件再調査決定の通知書の附記理由について

本件再調査決定の附記理由についても、何らかしは存しない。けだし、被控訴人は原判決の如く、本件再更正処分のうち、借地権価格の計上洩れ三三〇万円を加算した点に異議があるとして再調査請求の申立をしたので、調査を重ねたが、本件建物の譲渡に随伴して、その敷地の借地権が移転することは当然であり、これを否定すべき特段の事情は何も存しないのである(本件訴訟の審理の結果をみても、また然り)。

また、その借地権の評価額三三〇万円についても、それは過少でこそあれ、これを過大とすべき資料は何もなかつた、それで控訴人は本件再調査決定において、原判示の如き理由を附して、その請求を棄却したのである。右附記理由の意味はもちろん、本件資産(建物とその敷地の借地権)の譲渡による行為計算は、同族会社の行為計算否認の法条に該当するので、不服申立にかかる借地権価格の計上洩れを同条項に基いて加算した再更正処分は相当であり、その評価計算に誤りも認められないので、本件再調査請求は棄却するというにある。その表現において生硬であり、やや適格を欠くうらみはあるが、不服申立の理由に対応して、その趣旨は十分理解できるのであるから、再調査決定の附記理由としてはこの程度で足りるものというべきである。原判決は「法人税法第二条の三の所謂同族会社の行為又は計算の否認の規定を適用した場合にあつては、否認の対象となつた行為又は計算の内容否認の根拠、否認した結果いかなる資料に基き、いかなる課税標準により計算したのかその計算の過程等を明らかにすべきであるのに前示記載理由にはこれらの点につき何等の説明もなされていない。」とされているが、本件再更正処分の附記理由及びこれに対する不服申立の理由と対応して、本件再調査決定の附記理由を読めば、否認の対象となつた行為計算は、本件資産の譲渡につき借地権価額三三〇万円を計上しなかつたこと(その加算について被控訴人は不服申立をしたのである)

否認の根拠は同族会社の行為計算の否認の法条(法第三一条の三)によること、右計上洩れにかかる借地権価格三三〇万円を課税標準に加算して所得金額を更正したことが完全とはいえないまでも、一応説明されていると解される。再調査決定にそれ以上正確詳細な理由附記を要求することは余りにも厳格に失し、ひいては税務行政の運営に重大な支障をきたす結果となりかねないことを考慮しなければならない。

(昭和三九年三月一〇日付)

準備書面(被控訴人)

一、法人税法第三二条後段に於て青色申告者の申告を更正する場合更正処分通知の書面にその理由を附記すべきことを規定し、また法人税法第三四条第七項が再調査請求棄却決定に理由を附記べきことを規定しているのは「訴願法や行政不服審査法による裁決の理由附記と同様に決定機関の判断を慎重ならしめると共に、審査決定が審査機関の恣意に流れることのないように、その公正を保障するためと解されるから、その理由としては請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明かにしなければならない。」(昭和三六年(オ)第四〇九号、同三七年一二月二六日第二小法廷判決理由同趣)のであつて、勿論「審査決定の当否を審査する訴訟においては審査決定の結論が違法であるか否かに基いてこれを維持すべきか否かを決すべきであつて、審査決定に附してあつた理由が不備であるということだけで審査決定を取消すことは許されないと解することは誤りである。」(前同判決理由参照)。

即ち、法律が「理由を附記すべき旨を規定しているのは行政機関として、その結論に到達した理由を相手方国民に知らしめることを義務づけているのであつて、これを反面からいえば国民は自己の主張に対する行政機関の判断とその理由を要求する権利を持つともいえるのである」(前同判決理由参照)。

即ち、右趣旨は既に前掲の通り最高裁判所に於てもその判決理由中に明確に示されて居るのであるが、更に最高裁判所昭和三六年(オ)第八四号、昭和三八年五月三一日第二小法廷判決例によれば、「一般に法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは処分庁の判断の慎重合理性を担保して、その恣意を抑制すると共に処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものである。」となして居り、結局原判決の理由に記載してある通り「決定をなすに至つた理由を具体的に記載自体で納税者が理解し得る程度に記載すべきである。」と云うことになるのである。

右判例の趣旨をみるに、特に青色申告者に対しては法規の定める詳細な帳簿組織の備付けを義務づける反面帳簿の記載を無視して更正されることのないことを保障する等種々の特典を与えている青色申告制度の法の精神を考慮すれば青色申告者の申告の更正処分通知書には更正の理由として特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して納税者がその記載自体から充分に理解出来る程度の具体的な根拠を附記すべきであり、右程度の理由の記載を欠く更正処分は違法であり、取消を免れないと解するのが相当である(前掲最高裁昭和三六年(オ)第四〇九号及び最高裁昭和三六年(オ)第八四号参照)。

右の通りで「いかなる事由でその結論に到達したかの過程を明かにすること」が要求されるのである。

右同趣旨の判決としては仙台高等裁判所昭和三五年九月二四日の確定判決(昭和三五年一一月五日発行国税速報第一三六八号三P掲載)によつても明かで、「計算に関して備えつける帳簿書類については正確を期するため命令の定めるところによらなければならないことになつていること等からすると、右の更正は特にその手続、方法を厳格にすることを納税者に保障しているものと認められるから…右理由の附記は単に概括的に収入、支出、所得額の統計を示す程度を以て足らず、帳簿書類の記載、計算の誤がどの点にあるか具体的にその根拠を示して摘示することが必要であると解すべきである」となしているのであつて、「青色申告の更正処分通知書に具体的に理由を附記することは更正処分の有効条件である。」(広島地方裁判所昭和三一年一〇月一六日判決、昭和三〇年(行)第一四号)となし、更正の理由として「売上金(収入金)の過小」とか「販売原価の過大」とか「経費の過大」とか「所得金額の過少」と記載することは全然具体的理由の記載のないものであるとされている。」(奈良地裁昭和三三年九月一六日判決昭和二九年(行)第七号)。

二、右各判例理論よりしてみるに、一般抽象的に判例は更正決定又は再調査決定の理由として記載すべき程度としては「その結論に倒達した過程を具体的に表示しなければならない。」とするものであつて、本件の場合「借地権計上洩三三〇万円」との更正理由はその結論を述べているにすぎずして、その結論に到達した過程は何一つ表示されて居らないことは明白であり、また極めて具体性を欠き、如何なる土地の如何なる借地権が如何なる理由で計上されるべきなのに、計上されていないと云うのか、またその価格が何故三三〇万円となるのか等の具体性は全くない。

右の様な「借地権計上洩三三〇万円」との記載は換言すれば「売上計上洩三三〇万円」或は「販売原価過大三三〇万円」又は「経費過大三三〇万円」との記載と何等変るところがなく、いかなる資料に基き、どの様に計算をした結果の更正なのか不明であり、どの様な借地権がどの様な資料により認められたのかの記載もなく、又その借地権の価格を課税対象として計上することがどうして正当なのかの表示もない。また単に控訳人主張の通りその借地権の価額三三〇万円はいかなる根拠により算出されたのかについての根拠もない許りに止らず前述の通り一片の具体性すら認められないのであつて、右記載自体から納税者には全くこれを知るに由ないものであり、前出各判例の趣旨よりみて法人税法第三二条後段の理由附記の要件を満たしていないことは控訴人の陳弁を待つまでもなく明かである。

三、控訴人は否定された最高裁の山田裁判官ただ一人の少数意見を唯一のより所として且つ税務行政上の負担軽減のため国民の血税をとるのに行政処分理由を不明確にしてもよいと言うこと帰到し、賛底に成し得ない憲法八四条の所謂「租税法律主義」の原則上からしても課税には租税の具体的な内容、例えば課税物件、課税標準、税率等々につき明確に法律で示すことを要求されているのであつて、その趣旨からしても更正処分は一種の課税処分でもあるので、いかに手数をはぶくとは言うもののその処分の理由を不明確にして税を国民におしつけることは許されないものと言うべきである。

四、また、再調査請求棄却の決定にしてもその決定通知書自体からその棄却理由を明確に理解出来る様具体的に記載すべき義務のあることは前記各判決例よりして明かである。

然るに、右決定棄却通知書中の理由は単に「(株)高橋工業所並びに株百反はともに同族会社であり資産の譲渡による行為計算は同族会社の行為計算否認に該当するとした当初の処分は相当であり、計算過程による誤りはない。(株)百反の設立は新規設立であつて基本通達二五四の取扱は受けない。」と記載されているだけであり、前記再更正処分通知書と対照してみても、何故再更正処分が相当であつて、再調査請求が理由がないのか不明である。

即ち、右再調査請求棄却決定の理由書には棄却と云う結論にいたつた経過を具体的に表示すべきなのに(前出判例)全く抽象的でその結果に到つた具体的経過は不明である。

特に、右法人税法第三一条の三の所謂同族会社の行為又は計算の否認の規定を適用した様な場合にはその適用に当り否認の対象となる行為又は計算は具体的に如何なるものなのか、またその否認されるのは如何なる根拠理由によるのか、否認した結果いかなる根拠資料に基き課税対象価格を認定したのか、又それに対しいかなる課税標準により計算したのか、その計算の過程がどうなるから再更正処分は相当であつたのか等を明かにしなければならないものと云うべきである。

蓋し、所謂行為又は計算の否認の規定自体極めて抽象的でそれ自体憲法違反の疑いのある規定であること、原審準備書面(昭和三八年九月一二日付)で述べた通りであるから、特に具体的な本件の場合前記の通りの内容を明確に具体的に表示しなければ、何等理由を附さなかつたに等しい。

右棄却決定の理由は換言すると結局「行為計算等否認の規定を再更正処分は適用した結果であると考える」と云うことだけに帰しその適用はどうしてされ、何に何うして適用したのか、その結果どういう根拠で評価し、どう云う標準で課税になるのか再更正処分の理由が「借地権計上洩とあるだけであるから全く不明である許りか、また「三三〇万円」と云うことも何故「三三〇万円」かも判明しない。

五、控訴人は再更正処分の理由及び再調査棄却決定の理由の外に口頭その地によつて補充することにより被控訴人は再審査請求に理由を附して申立をすることが出来ているから、それによつて前記更正処分の理由不備並びに再調査請求棄却決定の理由不備は治癒されるかの如き主張をなすかの如きである。

然し、前記最高裁の判例で明示している通り「理由附記が処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるから、その記載を欠くに於ては処分自体の取消しを免れないとしているから、理由附記不備の追完は一定の更正処分期間内に限られ、その後に於て不服申立ての段階においてこれを追完ないし治癒することは認めない趣旨であるとも解せられる。この意味で原処分は処分として取消を免れないのであるから、再調査請求又は審査請求について具体的根拠を明示したと仮定してもそれは後の祭りということになるので、審査決定による追完治癒は認められないことになるのである(後記「税理」同趣旨)。

右最高裁判決の後段の方に於て審査決定の理由の違法を論じた箇所が存するが、これは原処分の違法とは区別して審査決定を取消すべきか否かを論じているものであるから、理由附記の問題の判定が原処分及び審査決定を一本として行われる趣旨のものではない。理由附記の違法の治癒は前述の様に制限せられたということであるとすれば、審査決定において充分な理由を付すれば足りるという逃道もこれでふさがれた。」とされる(日本税理士会連合会監修、帝国行政条会発行「税理」第六巻第九号昭和三八年八月号、京都大学教授法博須貝修一「理由附記裁判の意味するもの」P三八参照、同趣旨)。

而して、右判決によれば「高裁は口頭補充を認めたことが上告理由中に述べられている。ところが、最高裁はどの様な程度の理由記載を必要とするかを論ずることによつて、また当然この様な口頭補充等の議論を認めないことを明にした。この点についてもまた逃道はふさがれたのである。」とされている。(前同三九P)まして、本件に於て再更正処分の理由は「借地権計上洩」と云う理由以外に全く附記理由が存在しないのであつて、右原処分には「同族会社の行為及び計算の否認」の規定を適用した結果であることすら理由中には存在しないことを特に注意しなければならない。

以上の次第で控訴人の主張は失当である。まして、処分権者でない他人がつけた理由、即ち原告がなした再調査請求理由を以て再更正処分の理由や再調査棄却決定理由の不備を治癒しようとする理論は自らの権威と職責を放棄して他人にその義務と権威を任せるに過ぎず、問題外である。乙一号、乙二号証は口頭で申立人の求めに応じて説明された所により出されたもので、それによつても明かな通り再調査請求当時行為計算否認の規定が適用されたことは何等申立人に於て知つていなかつたこと、又如何なる標準で評価されたか、いかなる課税率によつたのか何故存在しない借地権譲渡価格を計上しなければならないのか等々は不明であつたこと、然もそれらのことは再調査棄却決定の理由でも依然不明であること、並びに本訴に於ても借地権と主張するその内容その評価基準が今なお明確を欠き、且つその価税標準等も何等具体的容観性のある基準がなくして一方的に「政府の認める所」でなされている事実に照し、控訴人の前記主張は失当と云わなければならない。右主張致します。

(昭和三九年四月一五日付)

○準備書面(控訴人)〈省略〉

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